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私も「胃がん」になりました 第2回

 

ルポライター・明石昇二郎

【第2回】

明石、「がん登録」される

 

モーメント・マグニチュード (Mw) 9.0という日本の観測史上最大規模の地震による大震災と、国際原子力事象評価尺度(INES)で最悪の「レベル7」と評価された原発事故という、巨大な不幸に同時に見舞われた福島県民。そんな福島県民の皆さんに、取材を通じて寄り添い続けて7年ほどが過ぎたところで、福島県民の間で現在多発している病気と同じ病気になってしまいました。

そこで、この貴重な体験を単に個人的なものに留(とど)めるのではなく、「世のため、人のため」に役立てるべく、レポートしていくことを決意しました。ちなみに、こうしたレポートのことを私の仕事仲間の間では「当事者ルポ」と呼んでおります。今回はその「当事者ルポ」の第2回になります。

手術を受ける前、私が一番気になっていたのは、「がんもどき」とも呼ばれる胃のカルチノイド(=神経内分泌腫瘍)が、果たして「胃がん」と言えるのかどうか――ということでした。言い換えれば、福島県で現在多発が確認されている胃がんと、私の罹った胃カルチノイドが、同類のものと言えるのか、ということです【注】。

 

【注】2016年1月より開始された「全国がん登録」制度に基づき、がんに関するデータを収集・整備しているのが、東京・築地にある国立がん研究センターのがん対策情報センターです。「がんもどき」とも呼ばれる神経内分泌腫瘍が、果たして「全国がん登録」に登録されるのかどうかは、ここで確認するしかありません。

同センターのホームページには「院内がん登録実務者のためのマニュアル」(https://ganjoho.jp/reg_stat/can_reg/hospital/info/doc/manual.html)が掲載されており、どのような病気(=病名)を「がん」として登録するのかが、部位ごとに詳しく書かれています。見ると「胃カルチノイド」は、がん登録すべき病名の中にきちんと入っていました(https://ganjoho.jp/data/reg_stat/cancer_reg/hospital/info/stomach201806.pdf)。

 

私が手術を受けることになったがんの専門病院・A病院で、手術を担当するベテラン外科医の執刀医・N医師に確認したところ、

「明石さんのケースもがん登録されます」

とのことでした。これで私も「がん登録」されることが明らかになったわけです。「カルチノイド」や「がんもどき」なる呼称は、放っておいても問題ない病気と受け取られたり、対処を誤ったりする恐れもあるので、多少難解であっても正しく「神経内分泌腫瘍」と言い換えたほうがいいでしょう。

従いまして、本稿では明石が罹った「胃カルチノイド」(胃の神経内分泌腫瘍)のことを、特に断り書きをしない限り「胃がん」と表記することにします。

 

まずは「治療」に専念

 

「全国がん登録」制度では、地方自治体ごとに実施されている「がん検診」で発見されたのか、あるいは自覚症状があって病院を受診して発見されたのか、または人間ドックで発見されたのかなど、そのがんがどのような経緯で発見されたという情報や、がんが発見された時に遠隔転移やリンパ節転移があるのかないのかといった、がんの進展度に関する情報など、極めて詳細な情報も登録されます。部位ごとの集計データでは、例えば「胃」の場合、そのがんが「癌腫」なのか、それとも私が罹った「神経内分泌腫瘍」なのか、あるいは「悪性リンパ腫」(非ホジキンリンパ腫)なのかといった情報まで登録されます。

私の場合も、内視鏡検査で腫瘍の大きさを、超音波内視鏡検査で腫瘍の深さを、そしてCTスキャンで転移の有無を確認しています。こうした検査結果の情報も「がん登録」されるのでしょう。ちなみにその検査結果ですが、腫瘍は大きくなっておらず、深くもなく、遠隔転移も確認されなかったとのことでした。リンパ節転移に関しては、胃とともに周辺のリンパ節を摘出し、それを顕微鏡で調べるのだそうです。つまりリンパ節転移の有無は、手術後に判明すると説明されました。この原稿の執筆時点(12月15日現在)ではまだ、確認できておりません。

ところで、10月5日に当「レベル7」サイトにアップしました明石の記事、

 

「全国がん登録」最新データ公表

福島県で胃がんは3年連続で「有意に多発」していた(https://level7online.jp/?p=1744

 

で使用した「全国がん罹患モニタリング集計」データでは、都道府県別の罹患数や患者の年齢階級などが部位ごとにまとめられています。このデータでは、「癌腫」も「神経内分泌腫瘍」も合わせて「胃がん」として集計されています。

他の悪性腫瘍と比べ、比較的おとなしい腫瘍とされる胃の神経内分泌腫瘍ですが、早期発見できたにもかかわらず、外科手術を受けずに放置した場合はどうなるのでしょうか。執刀医のN医師は、次のように説明してくれました。

「胃カルチノイドは他の臓器などに転移する悪性の腫瘍なので、何も手を打たなければ3年から5年で亡くなるでしょう」

となれば、まずは治すことに専念するしかありません。11月下旬、私は根治(こんち)(病気を根本から完全に治すこと)を目指し、悪性腫瘍ごと胃の2/3以上を摘出する手術を受けました。術式は予定どおり腹腔鏡手術で行なわれ、開腹せずに済みました。6時間に及んだ手術の終了後、執刀医のN医師から、

「手術は成功しました」

と説明されたと、後日妻から聞きました。手術中の簡易検査で転移等が確認された場合は、胃以外の臓器も同時に摘出するかもしれないと説明されていましたが、転移は確認されず、胃以外の臓器の摘出は行なわれなかったそうです。

開腹せずに腹腔鏡手術で対処できたのは、早期にがんを発見できたからこそのことでした。開腹した場合、退院までの期間が延びる上に、スタミナの回復にも時間がかかるといいます。がんのサバイバーである〝先輩〟患者の皆さんは、私が胃がんで手術したことを知ると、異口同音に、

「開腹したの?」

と私に尋ね、腹腔鏡手術だったことを伝えると、

「それは本当によかった」

「自分は開腹したので、リハビリに時間がかかった」

などと、自分のことのように喜んでくれるのでした。

 

そして「原因究明」を目指す

 

執刀医のN医師と初めて手術の打ち合わせをした際、

「最初に内視鏡検査をした大学病院は、よくがんを見つけたと思います。私だったら見逃していたと思う」

と言われました。大学病院で内視鏡検査を受けた際のがんの大きさは、6ミリ程度だったからです。がんの専門病院であるA病院のベテラン医師がそう言うのですから、早期発見できたのはたまたま、もしくは偶然の産物であり、幸運以外の何ものでもないのかもしれません。

今回の手術を受ける2年前、私は人間ドックを受診し、胃内視鏡検査や大腸内視鏡検査、腫瘍マーカー検査、脳のCTスキャンなど、ひと通りのがん検査を受けていました。何もしてこなかったわけではないのです。ただ、この際に異常は発見されなかったため、その翌年は、住まいのある区の胃がん検診を受けませんでした。自分の健康を過信したわけです。もし、2年連続で胃がん検診を受けなければ、発見は相当遅れていたことでしょう。ともあれ、検査を避けていては「発見」することもできません。

私の入院生活は、結局3週間ほどに及びました。

開腹せずに腹腔鏡手術で胃がんに対処できたものの、胃がんに罹ったことによるダメージは多方面に及びました。

私は喫煙者です。しかしA病院は、

「禁煙しなければ手術をしません」

「手術前に隠れて喫煙したことが見つかり、強制退院させられて患者さんもいるので、ご注意下さい」

と、ハッキリ告げる病院でした。仕方なく、手術の1か月前から禁煙を実行したのですが、それによる精神的ストレスは相当なものでした。

まず、禁煙直後から下痢が始まり、それは手術の直前まで続きました。

禁煙の影響は原稿の執筆にも及びました。原稿が全く書けなくなってしまったのです。禁煙外来のある近所のクリニックにかかり、ニコチンパッチを処方してもらって何とかこの危機をかわすことができましたが、下痢は収まりませんでした。

A病院が禁煙を強制する最大の理由は、手術後の肺炎(術後肺炎)を防ぐためです。腹腔鏡手術は、おなかの中に空気を入れて膨らませて行なうため、肺がつぶれるなどしてダメージを受けます。それを最小限にすべく、手術前から呼吸訓練を行なった上で手術に臨むのですが、それでも喫煙者は術後の痰の量が多くなり、術後肺炎になるリスクが高いのだそうです。

手術による最大のダメージは、仕事ができなくなることでした。3週間に及んだ入院中、すべての仕事を一旦停止せざるを得なくなり、貯えの乏しいフリーランスライターの身としましては、微々たる貯えを吐き出し、いきなり厳しい経済状況に追い込まれることになってしまいました。できることと言えば、退院後のいち早い社会復帰を目指し、リハビリに励むことくらいでした。

前掲の明石執筆記事(https://level7online.jp/?p=1744)では、東日本大震災と福島第一原発事故が発生した2011年を境に、福島県における胃がんの罹患者数が男女とも増え続け、2012年以降は3年続けて「統計的に有意な多発」(=確率的に「偶然」とは考えにくい多発)状態にあることを報告しています。要約しますと、全国と同じ割合で福島県でも胃がんが発生していると仮定し、実際の罹患数と比較する「標準化罹患率比」(SIR。標準化罹患比ともいう)を弾き出し、その「95%信頼区間」を求めてみたところ、福島県では2012年と2013年に引き続き、2014年も胃がんが男女ともに「有意に多発」していたことが確認されたのです。

【注】国立がん研究センターでは、SIRが110を超えると「がん発症率が高い県」と捉えているようです。参考までに同センターがまとめたSIRの全国地図【以下の地図。「全国がん罹患モニタリング集計 2012 年罹患数・率報告」(国立がん研究センター がん対策情報センター)より抜粋】を紹介しますと、男性で15県、女性でも15府県が「SIR110以上」と色分けされています。

以下の【表1】(前掲記事の【表2】)をご覧いただきたいのですが、例えば2012年の男性で1672人、2013年の男性で1659人、2014年の男性で1711人と、3年間で5000人以上の福島県男性が新たな胃がん患者として「がん登録」 されています。一方、女性は2012年に774人、2013年に767人、2014年に729人と、3年間で2000人以上が新たな胃がん患者として「がん登録」されています。つまり、2012年から2014年までの3年間だけで、男女合わせて7000人以上の福島県民の皆さんが、明石と同等かそれ以上の苦労や困難を強いられているのです。

「早期発見」できた私でさえ、これまで紹介してきた程度の困難を体験し、ダメージを受けているのですから、早期発見が叶わなかったがん患者の皆さんが受けるダメージは、私以上のものであることは想像に難くありません。さらに、です。

明石は現在56歳ですが、2012年以降の福島県の「がん登録」データを見ると、胃がん患者の中には20代や30代といった若年層で罹患している人たちも含まれています。また、2012年にがん登録された女性の中には「0~4歳」という年齢階級の胃がん患者もいます【表2】(前掲記事の【表1】)。

なぜ、東日本大震災と原発の大事故に見舞われた福島県で胃がんが有意に多発し、その福島県に通い続けた私まで胃がんに罹ることになったのか――。胃がんの摘出手術を終えたばかりの私は、原因究明の作業に着手することにしました。「統計的に有意な多発」とは、偶然起きたことではなく、何らかの理由があるはずだと考えたからにほかなりません。

(続く)

 

 明石は編集長業務に復帰致しました。明石への応援のメッセージ、本当にありがとうございました。

レベル7スタッフ一同

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明石昇二郎

1987年に青森県六ヶ所村の核燃料サイクル基地計画のルポでデビュー。『朝日ジャーナル』ほか複数の週刊誌や月刊誌などに様々なテーマで執筆。テレビでも活動し、1994年、日本テレビ「ニッポン紛争地図」で民放連賞を受賞。著書に『刑事告発 東京電力―ルポ福島原発事故』(金曜日)ほか。

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