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第27回公判傍聴記

事故からの避難が患者の命を奪った

9月19日の第27回公判は、昨日に引き続いて被害の様子を詳しく解き明かしていった。福島第一原発の爆発現場の直近にいた東電関係者、亡くなった患者さんらを診断した医師、遺族らが、事故調報告書ではドライに描かれている情景を、一人一人の言葉で生々しく肉付けしていった。

「流れ込むがれき、よく誰も死ななかった」東電関係者

3月12日午後3時36分、1号機水素爆発。現場にいた3人がけがをした。

「視界がもうもうと蜃気楼のようになって、青白い炎が見えた。すさまじい爆風が襲いかかってきて、がれきが宙に浮かんで、鉄筋が消防車のガラスを突き破り、前腕に直撃。疼痛を感じた」(消防隊所属の東電関係者。供述を検察官役の弁護士が読み上げ)[1]

3月14日午前11時1分、3号機水素爆発。けが10人。

「コンクリートのがれきが、煙のように多数流れ込んできた。周囲を見ることも出来なくなった。タンクローリーの影に隠れたが、タイヤの間から、がれきが飛んできた。破片は長い時間降り続けた。タンクローリーの爆発も怖かった。このまま死にたくないと思っていた。一刻も早く逃げないと被曝してしまうと、歩いて免震重要棟に向かった。よく誰も死ななかったと思います」(東電関係者、供述の読み上げ)

「国や東電の責任ある人に、責任を取ってほしい」遺族

事故直後の混乱期の避難で、双葉病院の患者32人、ドーヴィル双葉の入所者12人が亡くなった。

「とうちゃんは、2010年5月にドーヴィル双葉に入所。2週間に1回、土曜日に会っていた。顔を合わせるとにっこりしていた。3月17日に電話で遺体の確認をしてくださいと言われ、現実のように思えませんでした。『放射能がついているかも知れないので、棺は開けないで下さい』と県職員に言われた。東電や国の中で責任がある人がいれば、その人は責任を取ってほしい」(夫を亡くした女性、供述を読み上げ)

「原発事故さえなければ、もっと生きられたのに」(両親をなくした女性、供述を読み上げ)

「シーツにくるまれただけで遺体が置かれていた。家族や親戚に看取られ、ベッドで安らかに最期を迎えさせてやりたかった。避難している最中で亡くなったと思うとやりきれない」(遺族、供述を読み上げ)

「避難ストレス、栄養不良、脱水、ケア不良で死亡。極端な全身衰弱。これだけの避難がなければ、今回の死亡に至ることはなかった」(診断した医師が検察に回答した内容)

「避難が無ければ、すぐ亡くなる人はいなかった」医師

事故当時、双葉病院に勤務していた医師の証言もあった。

検察官役の渋村晴子弁護士が「事故による避難がなければ、すぐに命を落とす状態ではなかったですね」と尋ねると、医師「はい」と答えた。

医師は、長時間の移動が死を引き起こす原因を、こう説明した。「自力で痰を出せない人は、長時間の移動で水分の補給が十分でない中で、たんの粘着度が増してくるので、痰の吸引のようなケアを受けられないと呼吸不全を引き起こす。寝たきりの人も100人ぐらいいたが、病院では2時間ごとに体位交換をする。そんなケアができないと静脈血栓ができて、肺梗塞を起こして致命的な状況になる」

「避難する前には、普段の様子でバスに乗っていった」ケアマネ

3月14日に、ドーヴィル双葉から98人の入所者をバスに載せて送り出したケアマネージャーの男性も証言した。このバスは受け入れ先が見つからず、いわき光洋高校に到着するまで11時間以上かかった。自力歩行できない人が40人から50人おり、寝たきりの人や経管栄養の人もいたが、医療ケアがないままの長時間移動になり、移動中や搬送先で12人が亡くなった。

「避難する時には、普段の状況でバスに乗っていかれたので、死亡することは予想できませんでした。移動すれば解放され、正直助かったと思いました。その後、次々亡くなる人が出てショックでした。原発事故が無ければ、そのまま施設で生活出来ていたと思います」

2227人、突出して多い福島県の震災関連死

この日の公判では、被告人がこの裁判で責任を問われている44人の死について、それぞれの人が亡くなった状況や、遺族の思いが、鮮明にされた。

刑事裁判では触れられていないが、原発事故がなければ死なずにすんだ人は、もっと多いと思われる。東日本大震災における震災関連死は、福島県2227 人、宮城県927人、岩手県466人で、福島が突出して多い[2]。その原因は、東電が引き起こした原発事故にあるだろう。この裁判で争われているのは、被告人の責任のうち、ほんの一部にすぎない。

[1] 東京電力から福島第一原発で消防車の運用業務を委託されていた南明興産社員が政府事故調に供述した記録
http://www8.cao.go.jp/genshiryoku_bousai/fu_koukai/pdf_2/071_2.pdf

[2] 東日本大震災における震災関連死の死者数 復興庁 2018年3月31日現在

http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/sub-cat2-6/20180629_kanrenshi.pdf

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添田孝史

1990年朝日新聞社入社。大津支局、学研都市支局を経て、大阪本社科学部、東京本社科学部などで科学・医療分野を担当。原発と地震についての取材を続ける。2011年5月に退社しフリーに。国会事故調査委員会で協力調査員として津波分野の調査を担当。著書『原発と大津波 警告を葬った人々』(岩波新書)他。

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