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第28回公判傍聴記

防潮壁で浸水は防げた? 証言変えた今村・東北大教授

10月2日の第28回公判には、今村文彦・東北大教授が再び証人に立った(前回は第15回、6月12日)。検察官側が今村教授に依頼した津波シミュレーションの結果が、明らかにされた。

原子炉建屋などが建つ海抜10mの敷地(10m盤)の上に高さ10m(海抜20m)の防潮壁を、敷地の海側を全てカバーするように建設する。そこに東北地方太平洋沖地震の津波が襲来したら、どの程度浸水するのか。シミュレーションは、これを確かめるのが目的だった。

今村教授は、計算によると、この防潮壁があれば50センチ以下程度の浸水に抑えられるので、施設に大きな影響は無いと考えられると証言した。事故は防げたのだ。

一方で、今村教授は、シミュレーションの前提となっているように海側に長い防潮壁をつくることは合理的でない、とも証言した。今村教授は前回の公判では、地震本部の予測に従って15.7mの津波を想定すれば、海側に切れ目なく長い防潮壁を設置することになり、それがあれば、東日本大震災の津波も「かなり止められただろう」と述べていた。4か月前の証言を、今回覆したことになる。

15.7m津波の対策をしていたら、事故は防げたのか。あるいは防げなかったのか。出廷するたびに変わる今村教授の証言に、傍聴者には腑に落ちない点が残ったように思えた。

「10m防潮壁で事故は防げた」検察のシミュレーション

検察官役の久保内浩嗣弁護士が、シミュレーションの内容について、今村教授に尋ねる形で進められた。敷地上の建屋などを考慮して、もっとも細かいところでは2mメッシュの精密なシミュレーションを実施。その結果、10m盤の上に高さ10mの防潮壁が全面に設けてあれば、敷地南側の隅角部で津波が瞬間的に跳ね上がって防潮壁を越える程度で、建屋周辺への浸水は50センチ以下に抑えられ、施設への影響は小さいことが明らかになった。

これまで、刑事裁判では東電が作成した津波モデル「L67モデル」を用い、東電子会社の東電設計が計算して、浸水の状況を検討してきた。今回は、L67より波形の精度が高い津波モデル(今村教授らが2016年に発表[1])で計算したのが特徴だ。

「敷地全部には防潮壁不要」今村教授、証言を覆す

検察側のシミュレーションは、敷地の海側を、すっぽりカバーするように防潮壁を築くことが前提になっている。一方、弁護側は、15.7mの津波対策に、こんな長い防潮壁は不要で、「北側、南側など一部だけに作ることになったはずだ」と、「くし歯防潮壁」を主張していた。その場合、東北地方太平洋沖地震の津波は防ぎきれず、広範囲に浸水する(第4回公判)。

それについて、今村教授は6月の証言では「全面に必要」と述べ、「くし歯説」を否定していた。検察官役の久保内弁護士との間で、以下のようなやりとりがされていた。

久保内「福島第一原発の全体の見取図に、ベストな防潮堤の設置位置を、赤ペンで記入してください」

(今村教授、図のように書き入れる)

今村教授が6月の公判で「ベストな防潮堤の設置位置」として書き込んだ場所(赤ペン)、海渡弁護士による再現

久保内「ご記入いただいたベストな防潮堤を設置した場合、そこに今回の津波が来た場合、越流して浸水したかどうか、それについては証人はどんなふうにお考えになりますか」

今村「まずは防波堤の南側と北側ですね、あそこに20mの防潮堤を設置していただき、かつ、いろんな建屋の前にも、これは高さはちょっと議論なんですけれども、それを、ある程度の高さを設置いただければ、いわゆる津波の陸上からの越流は、かなり止められたと考えています」

ところが今回の証言では、南側と北側など一部だけに設置すれば良いという考えを示した。

前回の証言で、南部と北部以外にも「ある程度の高さ」が必要な理由として、今村教授は港湾内部の共振による増幅がありうることを指摘していた。今回の証言では、それを採用しなかった。その理由について、弁護側の宮村啓太弁護士と今村教授のやりとりがあったが、いつもは明快な宮村弁護士の尋問にしてはわかりにくく、根拠も明確に示されず、すっきりしなかった。

事故は回避できなかったか。残る疑問

実際には、東電が考えていた津波対策は、今回シミュレーションしたような10m盤の上の10m防潮壁ではなかった。沖合防波堤の設置と4m盤を取り囲む防潮壁の組み合わせや、海水ポンプや建屋の水密化などを「有機的にむすびつけること」を検討していた(第7回公判など)。それが施されていた場合、311の津波を防げたのか、あるいはそれでも事故は起きたのか、まだ明確になっていない。

また、「運転停止せずに工事を進めることができたのかどうか」は、大きな疑問として残されたままだ。

津波対策をとりまとめていた東電の中越沖地震対策センターの山下和彦所長は以下のように検察に述べていた[2]

「10m盤を超える対策は沖に防潮堤を造ることだが、平成21年6月までに工事を完了することは到底不可能であった。工事期間は4年かかる。最悪、バックチェックの最終報告書の提出期限を守れなかったとして、『工事が終わるまで原発を止めろ』と言われる。火力発電では燃料に莫大な費用がかかる。土木調査Gの提案どおりの工事では、原発をとめるリスクがある」(甲B57、平成24年12月4日付検面調書)。

「土木学会評価で現状でも安全で、不確かさの考慮で止める必要はないという東電の考え方だったが、従来より3倍も高い水位を示しながら、安全性を確保されているとの主張が保安院ないし安全委員会に受け入れられるのか確証はなかった。保安院やBCの委員、地元から、工事完了までプラントを止めるよう求められる可能性があった」(甲B58、平成25年1月28日付検面調書)。

当初の予定通り、2008年から2010年にかけて対策に着工しようとすれば、それ以降の数年間かかる工事期間中、運転停止を迫られていた可能性は高い。2011年当時、原発が止まって冷えた状態だったならば、津波に襲われても、ここまでの事故にはならなかっただろう。

[1] 今村文彦ら 「修正された東北地方太平洋沖地震津波モデルによる福島第一原発サイトへの影響再評価」土木学会論文集B2(海岸工学)、Vol.72,No.2,I_361-I_366,2016

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kaigan/72/2/72_I_361/_article/-char/ja/

 

[2] 法廷で読み上げられた山下和彦氏の検察官面前調書の要旨(2018年9月5日 第24回公判期日)

https://shien-dan.org/yamashita-201809/

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添田孝史

1990年朝日新聞社入社。大津支局、学研都市支局を経て、大阪本社科学部、東京本社科学部などで科学・医療分野を担当。原発と地震についての取材を続ける。2011年5月に退社しフリーに。国会事故調査委員会で協力調査員として津波分野の調査を担当。著書『原発と大津波 警告を葬った人々』(岩波新書)他。

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