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証拠要旨の説明

証拠要旨の説明で、海渡弁護士が読み上げた内容

()は海渡弁護士の解説部分

 

甲A222号証 平成17年12月15日 東京電力の酒井氏から関係者に送付した想定外津波に対する影響評価に関する保安院要請と題するメール

保安院幹部、原子力基盤機構幹部の懸念からして、早急に対応してほしい。少なくとも設計を上回る津波が発生した場合、プラントの状態がどうなるかなどのケーススタディは早期に実施できるはず。2プラント程度選定し、具体的な検討を進めたい。福島サイトを考えている。

 

甲A70 平成18年10月6日 原子力安全・保安院から電事連に対して行った指示の内容を記載したメモ

津波対応の個所では、自然現象であり、設計想定を超えることもありうると考えるべき。設計想定を超える津波が来る恐れがある。想定を上回る場合、非常用海水ポンプが機能喪失し、そのまま炉心損傷になるため安全余裕がない。

 

(こういうことを、電事連を集めて訓示している。耐震バックチェックでこのへんしっかりやれよと言っていたことがわかる)。

 

甲A74 平成19年11月1日

東電設計が福島第一、第二発電所に対する津波検討について作成した書面

 

本件原子力発電所に対する津波の検討などについて、活字で記述されているものに赤字の手書きの書き込みがあり、検討業務と問題点と最新の知見等が記載されています。これがシミュレーションと言われているものの始まった瞬間を記録しているものです。

 

甲A75 平成19年12月10日

日本原子力発電の関係者らが、東京電力の高尾氏から聞き取ったメモ

 

これまで原子力安全・保安院の指導を踏まえても、推本で記述されている内容が明確に否定できないならば、バックチェックに取り入れざるを得ない、などと記載されています。

 

甲A76物 書面ではなく証拠物件ということ。高尾氏のパソコン内にあった送受信したメールなどであり、時期は平成20年1月23日から平成21年9月24日のもの。

関係者間で、本件原子力発電所の耐震バックチェックに関するやりとりが行われています。平成20年1月31日のメールに添付された福島第一、第二発電所における津波のバックチェックについてと題する資料には、地震調査研究推進本部が示す海溝沿いの震源モデルについては、津波の検討では当初確定論では扱わず、確率論の中で取り扱うこととしていた。既往の想定津波評価では、基準地震動策定のために設定している震源モデルの位置に、波源モデルを設定しておらず、この波源モデルの位置に、津波の波源モデルを設定すれば、これまでの想定津波高さを上昇側は上回り、下降側は下回る可能性が高い。

 

(ようするにこういう前提で計算すると、津波の想定高が大幅に上がるだろうということです)

 

甲A184

(これがすごいです。酒井氏らが平成20年1月23日から平成23年の2月26日かけて送受信した津波対策についてのメール。たくさんのメールの抜粋です。これは、実際にはデータとして検察官が押収していたものを、検察官役が徹底的に検索をして、中身を読んで見つけた。そういう意味では、重要証拠としてピックアップしたのは検察官役の人がやった作業のようです)

 

平成20年1月23日に、酒井氏が中越沖地震対策センターつるがたかし氏らに送信したメールには、津波評価については、福島沖の基準地震動用地震モデルを津波に転換した場合に、NGであることがほぼ確実な状況。

ようするに、中間報告に含む含まないかに関わらず、津波対策は開始する必要があり、そうであるのであれば、少なくとも津波に関して中間報告に含む含まないの議論は不毛な状況。それよりも津波の上昇側の対策が現実にどのようにできるかが課題。

 

(すごいでしょ、実際にやるしかないんだということを言ってるんです。東電設計に発注した直後ぐらいのメールです)

 

平成20年2月4日に酒井氏が東京電力のながさわ氏らに送信した1F、2F津波対策と題するメールには、1F、2F津波対策について、金曜日、山下センター長らと1F、2Fにバックチェック説明を実施。津波について、今回建築が基準地震動用に改訂指針で記載される不確かさを考慮して、福島沖にマグニチュード8以上の地震を設定。現在土木で計算実施中であるが、従前評価値を上回ることは明らか。1F佐藤GMからも強い懸念が示され、社内検討について、土木が検討結果を出してからではなく、早期に土木、機電で状況確認をする必要があるのではないかと認識。津波がNGとなると、プラントを停止させないロジックが必要。

 

(ようするに、大きな津波が来ることになって、NGとなったら、もう原発を一度止めて津波対策工事にかからざるをえなくなる。そのときにでも原発を動かし続けながら津波対策をやることの理屈を考えなきゃいけない。みたいな議論をしている)

 

平成20年2月5日にながさわ氏が酒井氏らに送信したメールには、武藤副本部長のお話として、山下所長経由でおうかがいした話ですと、海水ポンプを建屋で囲うなどの対策が良いのではとのこと。

 

(だから6月に打合せしたとなっていますが、もう2月の段階から、武藤さんはこういうことになりそうだという話は全部聞いていたことがわかります)

 

平成20年2月27日に、高尾氏が酒井氏らに送信した津波評価今村教授相談結果と題するメールには、福島県沖海溝沿いの津波について、その取扱を東北大学今村教授に相談してまいりました。先生からは福島県沖の海溝沿いでも、大地震が発生することは否定できないので、波源として考慮するべきであると考える旨ご指導いただきました。

 

(少なくとも今村さんはこの段階では絶対必要ですよと言っているわけです)

 

平成20年2月28日の地震対策センターいとうたつや氏が、山下らに送信したメールには、昨日(2月27日)、武黒本部長に承認書のご説明をした際、耐震バックチェック中間報告や柏崎の基準地震動のついては、3月の常務会に付議するようご指示を受けました。常務会案件として早急にエントリーしておかないと、他の案件で埋まってしまうことも危惧されておりました。

 

(要するに早く工事にとりかからなければいけないので、決裁の時間を事前に決めておけ、みたいな話をしている)

 

平成20年3月7日の酒井氏が高尾氏らに送信したメールには、同日の津波対策のスケジュールに関する打合せについて、本日担当ベースの表記会議で、津波高さが10m超になる旨、土木側から説明があったようです。

 

平成20年3月20日の酒井氏が土木グループ関係者らに送信した御前会議の状況。

 

(御前会議って言うんですよ。メールの名称が御前会議の状況。これに「」がついて取扱注意で転送不可と注記がついている。これすごい重要ですね。ゆっくり読みますね)

 

福島バックチェック関係、要対応津波関係。おおいで所長から推本モデルは福島県の防災モデルに取り込まれており、8m程度の数字はすでに公開されている。最終報告で示しますでは至近の対応が出来ないとのコメントがあり、今回基準地震動で評価するプレート沿いの推本断層モデルを評価することとなったことについて、土木学会では評価不要としていたこと、推本評価を踏まえて今回評価せざるを得なくなったことの事実関係をまず整理。津波に関しては推本モデルの適応ということで当社福島地点のみの問題ではないため、太平洋岸各社で連携して、アクションプラン等を明確にしていつのタイミングでどう打ち出すかを確定する。

 

平成21年9月4日に酒井氏が吉田氏らに答申した福島津波対策と題するメールには、吉田部長、山下センター長ほか関係各位 福島巨大津波対応について

 

(「巨大津波」ですよ)

 

貞観津波、推本津波、対応について、適宜武藤常務以下に報告して進めております。先日、武藤常務から福島の津波の状況を知らせて欲しい旨のオーダーがありました。個別に吉田部長、武藤常務に説明(ききとれず)。

 

平成20年3月7日に、金戸氏らが出席して行われた津波対策のスケジュールに関する打合せの状況を記載したメモ。

 

(これとっても重要です)

 

NISA指示による耐震安全性評価の中で、津波に対するプラントの安全性を確認する必要があるが、土木グループの津波水位に関する評価状況から1F、2Fについては今まで想定していた津波の水位を上回る見込みである。社長会議にて説明ずみ。この結果から設備対策が必要となることから、土木、建築、機器、耐震各グループにて、今後のスケジュールを作成するため、スケジュール案を持ち寄り、打合せを実施した。また主な議論として打合せの中で土木グループから津波高さがO.P.+12〜13m程度になる可能性が高いとの説明があったが、機器耐震技術グループは福島サイトにおいて、O.P.+を越えると主要建屋に水が流入するため対策は大きく変わることを主張。用意したエンジニアリングスケジュールも津波水位がO.P.+10mを越えると成り立たないこと、対策事態も困難であることを説明。土木グループにて、再度水位設定値条件を確認した上で津波想定高さが十数メートルとなる可能性について上層部へ周知することとした。

 

(このへんで、15.7mというのは、彼らが想定した数値を数m上回っていたんですよ。10m超えるのは仕方ないだろう。だから5mぐらいの防潮堤を築くかぐらいのことは考えていたのかも知れないですけれども、15.7だと10m盤の上に10mということになりましたよね。それが当時考えていたものを大幅に上回ったんだろうと思います)

 

(あと、大事なことは平成20年3月31日に福島県生活環境部長への耐震バックチェックの中間報告というものをしています。この関係で作られていたQ&A集というのがあって、当初、報道機関に対するQ&A集ではないかと言われていたんですが、やっぱり生活環境部長への説明だったようです。この日に、福島県生活環境部長への耐震バックチェック中間報告ほかの説明結果について速報と題するメールがある)

 

平成20年3月31日 福島県生活環境部長への耐震バックチェック中間報告ほかの説明結果について速報

県側の「津波に対する安全性評価は、今回のバックチェック中間報告には入っていないのか」との質問に対し、東京電力は「津波の評価については最終報告にて報告する。最終の知見を踏まえて安全性評価を行う」

 

(これもすごく重要だと思います。3月末の段階で、最終報告というのは平成21年の6月にやることになっていた。それまでに津波対策を完了させますということを県に明確に説明しているわけです。このことは今まで明確に報道されていませんけれども、そういうことを県に対して約束していた。このことは県の担当者の調書で明らかになっているようです)

 

被告人武藤は、マスコミからの質問に対し、地質評価結果は7月までにまとめたい。バッチェックの最終報告は、2Fが平成21年3月、1Fは平成21年6月までにしたい。

 

(というふうにマスコミに対して答えている。みなさん驚きませんか。耐震バックチェックが終わるということは、津波対策が基本的に完了していなければならない。けれども、実際に15.7mのシミュレーションが出てきて、これに対応するとなるとそれが間に合わない。だけれどもなんとか間に合わせようという状態になっていたことがわかります)

 

平成20年4月23日に、東京電力の金戸氏らが出席した行われた津波水位に関する打合せの議事録

(これがきょう、法廷で提示された極めて重要な津波鉛直壁を築いた時の図面ですが、実はもう一枚ある。これも見せていいということなんで、立体の図面とセットになっているもの。ブルーで線が引いてあるところが、鉛直壁を築く予定だった地点です。4月23日にこれを説明した)

 

津波の進行方向に対して鉛直壁の設置を考慮した解析結果が提示された。壁設置の場合、19m程度の水位を想定していることは対外的なインパクトが大きいと考えられるから、上層部の意見を聞く必要があり、土木グループにて対応予定。

 

(わかりやすく言うと、思いもかけない大きな数値が出てきて、10m盤の上に10mの鉛直壁。こんな工事を始めたら、地元の住民が騒ぎ出してですね、原発を止めなきゃいけないんじゃないか、みたいな議論をしていたことがわかります)

 

平成20年7月21日に、被告人の武藤、武黒が出席して行われた「中越沖対応打合せ」というのがあって、これが結構重要なものだったのかも知れません。このことは今まで知りませんでした。この場で、新潟県中越沖地震の発生にともなう影響額の見通しについてという資料が配布されて、耐震安全性強化工事等のコストだけでなく、福島第一第二に水平展開した場合の費用の計上もされていたということで、平成20年8月末をめどに計画総予算を設定する予定。

 

(ものすごくお金がかかりそうだ、という議論が、武藤さんが計画を覆してしまう10日前に、武藤、武黒が出ている会合で話し合われていた)

 

(株主総会の本部長の手持ち資料の中に、O.P.+10mから12mの津波を考慮しなければいけないといったことも話し合われていた。)

 

(平成22年の8月から始まった福島地点の津波対策ワーキングの議事録と資料が4回分出されていて、これも重要だと思います)。

 

(平成23年3月7日のヒアリングの状況をまとめた資料などもある)

 

以下、海渡弁護士まとめ

東京第五検察審査会の第二次議決、そして津波予測担当社員らの不起訴相当にした第一検察審査会の議決で、僕らはかなり勉強してきていたので、ここで説明したものは全部それに沿っているので、そういう意味では予測可能だったと言えるかもしれないが、これだけの証拠が残っていた。それを集めたのは検察庁、それを分析してこういう形できちっとした資料にまとめてくれたのは、検察官役だ。それ自身は本当によくやってくれたな。これだけの事実が、福島のみなさんがひどい目にあう背景に行われていた。あらためて思うことは、日本の国の事故調査、検察の捜査がここまで隠ぺいされたということ。僕達がこれだけ頑張らなければ、今日明らかになったような事実は全て闇に葬られていたかもしれない。闇に葬られてしまっていたものを、検察審査会の委員の人たちが掘り出してくれた。そしてそのあとを引き継いで、専門家の検察官役が徹底的に証拠を精査して、今日出てきた冒頭陳述、証拠類を作ってくれた。

 

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添田孝史

1990年朝日新聞社入社。大津支局、学研都市支局を経て、大阪本社科学部、東京本社科学部などで科学・医療分野を担当。原発と地震についての取材を続ける。2011年5月に退社しフリーに。国会事故調査委員会で協力調査員として津波分野の調査を担当。著書『原発と大津波 警告を葬った人々』(岩波新書)他。

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